2013年9月29日日曜日

クレイトン・カーショウがレジェンド級シーズンを終える

現役最高の投手は誰か?
3年前ならば多くのファンはロイ・ハラデイと答え、昨年までならジャスティン・バーランダーこそが現役最高だと答えただろう。
しかし今そう問いかければクレイトン・カーショウの名前を挙げるファンや識者が大勢を占めるはずだ。
カーショウは2011年に23歳にして投手三冠に輝き一気にMLBのスターへと上り詰めたが、それはフロックなどではなく翌年も最優秀防御率のタイトルを獲得するなど好成績を残しMLB最高の左投手として活躍していた。
そうして迎えた今季は成績を落とすエース級投手も多くいるなかでカーショウはレジェンド級のシーズンを送ることになった。
そんな彼の今季の最終スタッツを詳しく見てみよう。

33先発(リーグ1位)
16勝9敗(同3位)
防御率1.83(同1位)
236.0回(同2位)
232奪三振(同1位)
奪三振率8.85(同9位)
四球率1.98(同10位)
K/BB4.46(同5位)
被本塁打率0.35(同2位)
被打率.195(同2位)
WHIP0.92(同1位)
FIP2.39(同2位)
xFIP2.88(同4位)
tERA2.86(同2位)
3完投(同3位)
2完封(同1位)
QS率0.82(同1位)

まだシーズン自体は終了していないとは言え、ほとんどなんの文句のつけようもなくサイ・ヤング賞間違いなしだと言える成績だ。
あらゆる数字が彼をリーグ最高クラスの投手だと証明しており、打線の援護に恵まれなかった勝敗も最終的にはエースらしいものになった。
防御率、奪三振、WHIPがリーグ1位で終えるのはほぼ確実であり、そうなると彼は防御率とWHIPは3年連続でリーグ1位を獲得することになる。
今季のスタッツで特筆すべきは当然ながら防御率だ。
近年ほとんど見ることがなかった防御率1点台。
最後にその牙城を破った投手は2005年のロジャー・クレメンスであり、それ以前を遡ると2000,1997年のペドロ・マルチネス、1996年のケビン・ブラウン、1995,94年のグレッグ・マダックスと、この20年間で達成された回数は両リーグあわせてわずか6度、それも達成した投手の数で言うと4人しかいない非常にハードルの高いラインだ。
言うまでもなく上記の投手たちは超のつく一流であり、クレメンス、マルチネス、マダックスの3人は歴史上最高の投手としても名があがるようなレジェンドたちだ。
防御率1点台というのはそれほど難易度が高く、投手の時代と言われる近年のMLBでも長年達成されていなかったことを考えてもその難易度はほとんど変わっていないはずだ。
セイバーメトリクスが発達した近年では、防御率という見かけの数字だけでなくその中身までも考察されるようになってきたのだが、カーショウは運に恵まれただけの見せかけの好成績ではないことは上記のスタッツを見れば一目瞭然だろう。
当然投手有利の本拠地の性質に助けられたという側面もあるし、リーグでも高いレベルにあった味方の守備に助けられたという面もあったわけだが、そこを考慮しても防御率1.83という数字の価値はなんら損なわれるものではない。
そしてさらに評価すべきは年間通してほとんどムラなく常に安定してチームに勝利のチャンスを与え続けた点だ。
彼が6ヶ月の間で防御率2点台になったのはわずか2度であり、残りの4度はすべて1点台だった。
最も頼りになる投手というのはハマれば相手を圧倒するというタイプではなく常に一定の結果を残し続けるタイプだ。
デビュー当時制球難に苦しんでいた若き速球投手の面影はもうなく、今ドジャースのマウンドにあるのは打者を圧倒する極めて完璧に近いプロフェッショナルの姿だ。
マウンドの仕事ぶりだけではなく、彼は人格面でも大いに評価されており、ロベルト・クレメント賞などの受賞経験もある。
今や彼はMLBの先発投手として理想的なキャリアを歩みつつあると言ってよく、年齢もまだ25歳なのだ。
史上初の3億ドル投手になるとも言われているが、彼が今後どういうふうにレジェンドになっていくのかその歩みを見守っていくのはファンとして非常に楽しみだ。

2013年9月26日木曜日

日本人初のサイ・ヤング投手は出るか?

今季は日本人投手の活躍が目覚しい。
ダルビッシュ、岩隈、黒田の三人のエース級先発投手に加えてリーグ最高のリリーフと言ってもいい活躍をみせる上原、そして最近では一度はどん底まで落ちた松坂もにわかに復活の気配を匂わせている。
これまでも、日本人メジャーリーガーは投手ではそれなりに活躍した選手が数多くいた。
パイオニアとして名高い野茂はタイトルや両リーグでのノーノーなど非常にインパクトある活躍をしたし、さらにそれ以上に安定感ある活躍を長期続けて先発2番手クラスの地位を確保した黒田もいる。
リリーフではなんといっても斉藤隆の活躍は素晴らしく、数年間リーグ有数のリリーフあるいはクローザーとして名を上げた。
しかしその一方で、日本人投手がサイ・ヤング賞というMLBの投手最高の栄誉に輝いたことはまだない。
1995,6年の野茂、2008年の松坂がそれぞれ投票で4位につけたのが過去の日本人投手の最高点だ。
日本は投手力の国だということを証明するためにも是非とも一度はサイ・ヤング賞投手を輩出しておきたいところだが、今季はその可能性に最も近づいているのだ。

上述の3先発はそれぞれ中盤までエース級の活躍をしていたのだが、流石に高齢の黒田がここにきて調子を落としはじめ、サイ・ヤングレースからは脱落してしまった。
可能性がある日本人投手は岩隈、ダルビッシュ、上原の3人。
しかし上原はただでさえハードルが高いリリーフである上にクローザーとして定着したのが遅かったためにセーブ数という分かりやすい数字に欠けていることから、レッドソックス地区優勝の立役者である点を考えても投票に顔を出す程度で上位に入ることは難しいはずだ。
そうなると受賞の可能性が出てくるのは岩隈とダルビッシュの2人だけになる。

岩隈久志
33先発(リーグ1位)
14勝6敗(同7位)
防御率2.66(同3位)
219.2回(同2位)
被打率.220(同3位)
奪三振185(同9位)
WHIP1.01(同2位)

ダルビッシュ有
31先発(リーグ19位)
13勝9敗(同14位)
防御率2.82(同4位)
204.0回(同14位)
被打率.193(同1位)
奪三振269(同1位)
WHIP1.07(同4位)

二人の残している数字を簡単に比較してみるとこうなるがダルビッシュに関してはもう1度登板機会があるかもしれない。
それでは最大のライバルとなるはずのシャーザーのスタッツも見てみよう。

マックス・シャーザー
32先発(リーグ5位)
21勝3敗(同1位)
防御率2.90(同5位)
214.1回(同4位)
被打率.198(同2位)
奪三振240(同2位)
WHIP0.97(同1位)

こうしてみると、ダルビッシュはシャーザーとタイプが似ている上に勝敗に大差をつけられているため上位互換の感が出てしまい、両者を比較するとどうしてもダルビッシュが一段落ちてしまう。
特にダルビッシュは9月に入ってからのチームの大事な時期に四球乱発や打線の援護のなさもあって5試合で1勝しかできなかった点はイメージが悪い。
となるとシャーザーと岩隈ではどうなるのか。
14勝と21勝のサイ・ヤング賞対決というとMLBファンなら2010年サイ・ヤング賞を思い出すはずだ。
わずか13勝で下位チームのエースだったヘルナンデスが21勝でポストシーズン進出チームのエースであるサバシアを上回った事件はMLB界にとって変革的な出来事だった。
日本人ならこの似たようなシチュエーションから2010年の再現で岩隈がサイ・ヤングの栄冠に輝くことに期待するファンも多いかもしれない。
だが2010年は勝敗以外はヘルナンデスがほとんどすべての点でサバシアを上回っていたからこその出来事であり、とりわけ防御率には1点近い大きな差があった。
しかし今回のケースではシャーザーが岩隈を上回っているスタッツも多く、勝敗で派手に差があいているのに対して岩隈がシャーザーに大差をつけているスタッツがない。
近年勝敗を投手の実力そのものとすることをよしとしない気風が広まってきているが、それでも勝ちを争うスポーツである以上チームの勝利に貢献したという直接的な数字である勝敗を軽視するわけにはいかない。
他の数字で明らかに実力の差が示されているのならともかくk、今回は勝敗のアドバンテージがシャーザーに味方することになるはずだ。
だがそれでも岩隈は日本人で初めてMLBで防御率2点台、200投球回を達成した投手であり(ダルビッシュも同時に達成しそうだが)、受賞ならずとも投票で3位以内に入る可能性は極めて高い。
偉大な日本人メジャーリーガーの仲間入りを果たしたことは間違いないのだ。