2014年5月5日月曜日

猛威をふるうキャリアルーキー

ルーキーというと何歳くらいの選手を思い浮かべるだろうか?
日本では18~22歳の選手を想像するファンが多いはずだ。
マイナーリーグがあるMLBではそうはいかず、MLBファンなら21~23歳くらいで考えるはずだ。
しかし近年、新人王争いはそういったマイナー上がりのルーキーだけのものではなくなりつつある。
そこに大きな影響を与えているのが日本人やキューバ人、そして韓国人といった自国内最高峰のリーグでトップクラスのプロとして活躍してアメリカにやってきた、キャリアルーキーたちである。

ダルビッシュがメジャーデビューした2012年、衝撃的な活躍を見せたトラウトがア・リーグの新人王に輝いたわけだが、新人王投票の2位に日本人のダルビッシュ、3位にキューバ人のセスペデス、4位に台湾人のチェンが入り、彼らはいずれも日本あるいはキューバのプロリーグでトップクラスの実績を持つ25歳以上の選手だった。
昨季ナ・リーグで新人王投票4位に入った韓国人のリュも彼らと同様で、2位に入ったプイグも若いとは言えキューバでの実績を持つ選手だ。

そして今季も同じように他国のプロリーグにおいてトップラクスの実績を持つ選手が鳴り物入りでMLB入りしている。
その筆頭であり、すでに大活躍しているのが田中将大とホセ・アブレイユの2選手である。

田中の活躍については日本での報道でご存知のファンも多いだろう。

6試合 4勝0敗 防御率2.53 42.2回 51奪三振 6四球 7被本塁打 WHIP0.96

上記の通り未だ無敗で、なおかつ全試合でQSを達成するなど抜群の安定感で、サイ・ヤング賞も現実的といえる投球を見せている。
被本塁打の多さに課題があるが、K/BBはリーグ2位の数値をたたき出しているように無駄なランナーを出すリスクが低いことで本塁打が致命傷になっていない。
田中にとっては中4日のフルシーズン自体が初めてということもあって、今後どこかのタイミング(おそらく夏場以降)で成績が下降していく可能性も低くないが、現時点では新人王争いの最前線に立っている。

その田中の対抗馬として挙げられるのが、キューバからやってきた強打者のアブレイユだ。
彼については”次なるキューバの衝撃は誰?”で取り上げているが、すでに予想通りの活躍を見せている。

32試合 打率.258 12本塁打 34打点 出塁率.319 OS.936 0盗塁

上記のように出塁率は高くなく、そのあたりはキューバ人打者らしいと言えるがパワーに関しては間違いなく本物で、現在本塁打と打点のリーグ二冠王になっている。
田中の成績は間違いなく例年の新人王の中でもトップクラスだが、アブレイユが調子を極端に落とすことなく本塁打などのタイトルを獲得した場合は彼の方に軍配が上がる可能性も高い。
それくらいこの2人は高い次元で新人王争いをしているのだ。

しかしそのおかげで、ア・リーグのマイナー上がりの”新人らしい新人たち”は蚊帳の外に置かれた状態。
有力候補の1人だったボガーツなども悪い成績ではないのだが、リーグトップクラスの戦いをしているこの2人には刃が立たず、彼らに対抗できそうな活躍を見せているのはかろうじてロイヤルズのベンチュラくらいである。
新人王投票の際に、新人らしくないからという理由で田中やアブレイユのような選手には票を入れない投票者は一定数いるだろう。
しかしこのままいけば今後も日本やキューバ、韓国といったレベルの高いリーグを経験しなおかつ20代中盤という年齢的に全盛期に近い状態の選手たちが渡米し、レベルの高い新人王争いを繰り広げることになる。
彼らを新人として認定し続けるのか否か。
これからMLBがこの問題にどう対処していくのか興味深いものだ。

2 件のコメント:

  1. スカーバラ2014年5月10日 15:50

     大リーグ以外の野球機構で好成績を残してきた選手を新人王の選考対象にしてよいのか?そもそも「新人」などと評してよいのか?これは非常に難しい問題です。
     まず、肯定説(形式説)の論拠は他国でどれだけの実績があろうが大リーグで活躍していない以上ルーキーであり新人王の対象になること、また、他所で活躍していたからという理由で新人王の対象外にするのは、機会の均等の原則に反することになるというものです。
     一方、否定説(実質説)は高校や大学から大リーグを目指して這い上がってきた選手と、他国の野球界におけるスーパースターだった選手を同列に扱うのは実質的に不公平であり、また、それぞれの国の野球機構をに対しても失礼であることなどを論拠にしています(それぞれのリーグを「無」と扱うに等しい)。

     これはどちらにも一理あります。だが、本来の意味での「新人」を考えると、キャリアルーキーを純然たるルーキーと同列に扱うのは問題が多いと言わねばなりません(経験や技術の蓄積が違いますから)。となると、次の論点はどこで線を引くかです。機構ごとに、または国や地域ごとに一律に線引きをしてしまう方法もありますが、これはよくない。選手と言ってもいろいろであり母国などで芽が出なかった選手が苦節して才能が開花し大リーグ入りした場合などを新人王の対象外にしてしまうことになりますし、また、「こちらのリーグの出身者は対象内だが、こっちは対象外」などと大リーグ側でランク付けすることにもなり、これはこれで失礼な話です。さらに、新人王をアメリカ人選手の独占物にしてしまうおそれもあり、賛成できません。
     そうであれば、大リーグ以外の野球機構におけるその選手の実績によって決するべきでしょう。細かいことはさておき、例えば一軍で5年以上の実績のある選手、または、一定試合数以上出場した選手は対象外とするという方法が考えられます。これならFA権をつかんで大リーグに挑むような選手はほぼ全て対象外になるので、問題が生じにくいのではないでしょうか。

     以上は制度化する場合の話です。この問題を投票権者の見識に委ねるという方法もあります。投票権者の間で「本来的な意味での新人」から新人王を選ぶべきとの意識が強まれば、問題の多くは解決するでしょう。「投手はMVPにふさわしくない」のような困った風潮とは異なり、こちらには真っ当な理由があるのですから、ファンからも理解を得られるはずです。なお、その場合は日本のファンは短気を起こさないようにしないといけません(例えば「田中が選ばれるべきだ」と叫んではいけない)。もしも「大リーグでの実績がない以上、平等に新人王に選ばれるべきである」という説を貫徹するのならば、日本のプロ野球が外国人選手の新人王の可能性をほぼ排除していることも批判しなければ公平さを欠くでしょう。


     新人王の資格に関しては新人王の表彰が始まった時から、問題をはらんでいました。大リーグの初代新人王は言わずと知れたジャッキー・ロビンソンですが、人種の壁の撤廃前に黒人リーグ(ニグロリーグ)で活躍していた彼を、果たして「新人」と評してよかったのか?いまだに議論はあります。無論、パイオニアである彼を讃え、かつ、今までの差別に対するある種の埋め合わせとして表彰するという側面もあったでしょうが、一方で「黒人の野球なんてレベルが低いに決まっており、ゆえに新人扱いするのが当然」という偏見が選考者たちになかったとも考えにくい(なお、現在では黒人リーグの実力は当時の大リーグと少なくとも同等であったというのがほぼ定説です)。ロビンソンの場合は、黒人リーグではさほどのスターではなく、また1946年は一応マイナーリーガーだったので(能力や技術の問題ではなく、雰囲気に少しでも慣れさせることが目的で、また、多分に大リーグ側の面子の問題もあったらしい)、まだ弁解ができないこともないですが、もしも「史上最高の投手」として名高いサチェル・ペイジ投手などが1948年に新人王に選ばれていたら議論百出の状態になったでしょう(「ほぼあらゆる大リーグの名選手をなぎ倒したサチェル・ペイジを、大学出の若僧と同列に扱うとは何事だ」ということになっただろう)。
     私は新人王表彰の始まった時期に今につながる「キャリアルーキー新人王問題」の根源もあったのではないかと思っています。この時、形式論を取ったのが今にも響いていると考えます。当時は「黒人選手を表彰して認知させる」という特別の理由で正当化することもできるでしょうが、現在はそのような理由はありません。

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    1. コメントありがとうございます。
      いつも参考になるご意見に本当に感謝しています。
      この他リーグでのキャリアを持つ選手に対する新人王資格に関しては一朝一夕で解決する問題ではないことは間違いありません。
      今はまだ問題視する声が大勢を占めているという訳ではありませんが、今季田中とアブレイユのどちらかが受賞し、また今後も日本人、キューバ人、韓国人のキャリアルーキーが新人王投票の上位に居続けることになれば、いずれこのことを疑問視する声が大きくなるはずです。
      かといって年齢で線引きしてしまうとマイナーから苦労して昇格した遅咲きの選手や、アメリカ独立リーグ出身の選手などまで除外してしまうことになります。
      となればMLBでの実績からみて日本やキューバ、韓国の国内リーグで一定年数活躍していた選手だけを制限するという方面になるのが制度的には妥当なところでしょう。
      これはMLBが日本のリーグのレベルの高さを認めたということになるので、日本のスター選手が新人王資格を失っても日本のファンはむしろ誇らしいのではないでしょうか。
      MLBがどういう決断を下すのかはわかりませんが、この問題は近いうちに噴出し、なんらかの対応策が練られるはずです。
      もしかすると、大谷や藤浪などがメジャー移籍を現実的なものにする頃合いには新たな制度ができているかもしれませんね。

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