2013年11月21日木曜日

超ビッグトレードが成立 そこに潜む両者の思惑はいかに

大きな動向がまだなかったオフシーズンに衝撃が走った。
少し珍しい大物同士の1対1のトレードだ。
その大物とはプリンス・フィルダーとイアン・キンズラーだ。

プリンス・フィルダー(タイガース→レンジャーズ)
2013年 162試合 打率.279 25本塁打 106打点 出塁率.362 OPS.819 1盗塁
フィルダーは29歳の一塁手でブルワーズからFAになり9年214Mドルという超大型契約を結んでいた。
この先残っている契約は2014~20年まで各24Mドルずつだ。


 
イアン・キンズラー(レンジャーズ→タイガース)
2013年 136試合 打率.277 13本塁打 72打点 出塁率.344 OPS.757 15盗塁
キンズラーは31歳の二塁手で2013年からの5年70Mドルの延長契約を結んでおり、オプションも含めれば2018年まで契約が残っている。
この先の契約の内訳は2014年16Mドル、2015年16Mドル、2016年14Mドル、2017年11Mドル、2018年12Mドル(チームオプション)となっている。


この両者はフィルダーが5度、キンズラーが3度オールスターに出場するなど紛れもないトップ選手なのだが、これは一見かなり衝撃的なトレードに見えて合理的でもあるように思える。
まずレンジャーズだが、ここでは以前からキンズラーをどうするかで少し困ってもいた。
遊撃手には既に長期契約を結んでおり一流の守備・走塁を披露してくれる若いアンドラスがおり、そしてさらに全米1位の評価も受けたプロスペクトのジュリクソン・プロファーもいた。
これだけのプロスペクトだがルーキーイヤーとなった今季すでに内野各ポジションに確固たるレギュラーがいたためにプロファーは便利屋的扱いを強いられることになってしまった。
そのためキンズラーを外野や一塁にコンバートするという案は以前から出てはいたのだが結局実現しなかった。
プロファーを使っていくにはどこかを空けねばならず、そこで白羽の矢がたったのがキンズラーだったのだろう。
既に30歳をこえてここ2年はどこか不調気味のキンズラーは少し将来を危惧されていたのかもしれない。
そしてレンジャーズはフィルダーというオールスター一塁手を獲得することによってハミルトンに次ぐ左の強打者を獲得することに成功したわけだ。
これにより三塁手にはベルトレ、二塁手にはプロファー、遊撃手にはアンドラス、一塁手とDHはモアランドとフィルダーを使うことができるようになった。
余剰人員の問題を解決しさらに長打力を強化することができたわけだが、当然ながらそこには2020年まで残るフィルダーの大型契約というリスクもついてまわる。
今季少々不調気味だっただけに少しこの契約期間の長さは怖いのだが、フィルダーはほとんど怪我をしない選手だしアーリントンである程度打撃成績が底上げされるだろうと考えればそれほど高いリスクでもないのかもしれない。

続いてタイガース側からの思惑だが、タイガースはレンジャーズのようにプロスペクトが出てきたことによる玉突きでフィルダーを放出したというわけではない。
しかしタイガースはタイガースで弱点の補強と将来のための布石をうったのだ。
まず一つ今季のチームスタッツをみると明らかに目立つ弱点MLB最下位の盗塁数だ。
主軸だったカブレラ、フィルダー、マルチネスは当然ながら走塁貢献度などゼロに等しく、唯一スピードがあったジャクソンさえも怪我で8盗塁に沈んだため今季のタイガースでは二桁盗塁が一人も出なかったのだ。
チーム打率が1位でありながら得点数や二塁打数などレッドソックスに大きく水をあけられた(本塁打はほぼ互角)のはこのスピードのなさも原因の一端にあるはずだ。
加えて守備力の低さも問題だった。
堅実さはあったものの左翼手のダークスや中堅手のジャクソン以外は今季ほとんどが守備面で足を引っ張っていた。
そのためタイガースのオフの課題はスピードと守備の強化だった。
そこで今回のトレードに目を向けてみよう。
キンズラーは二塁手としてこの5年間のDRSがペドロイアに次ぐ2位に入るほど守備力が高い選手で、特にダブルプレーなどの際にその存在感を魅せる。
また走塁面に関してもデビューから8年連続で二桁盗塁、30盗塁を2度記録しているスピードのある選手だ。
またパワーもありある程度ボールを見ることができるので上位に置いておくとかなり貢献度が高い選手でもある。
それだけ走攻守が揃っている選手というのがタイガースにはおらず、フィルダーを彼に置き換えたことでカブレラを一塁へ再コンバートすることができ、三塁守備もアップグレードすることができる。
これにより遊撃手にイグレシアス、二塁手にキンズラー、中堅手にジャクソンとセンターラインの守備力を大きく改善することができた。
またそれ以上に大きいのが契約のダウングレードに成功したことだ。
フィルダー自身は優れた選手だが、さらに価値のあるカブレラの契約は2015年までであり、そして今季サイ・ヤング賞を獲得したシャーザーも2014年オフにFAになってしまう。
つまりここで大金を投じるためには2020年までの超大型契約が残っているフィルダーは実は足かせになっていたわけだ。
既にバーランダーやサンチェスに長期契約を与えていたタイガースとしてはそれほどの契約をいくつも抱えるわけにはいかず、何かを犠牲にしなくてはいけなかった。
そこで残り4年57Mドル(オプションを含めれば5年69Mドル)と総合的な活躍度を考えれば割とリーズナブルなキンズラーへと契約をダウングレードできたことで、シャーザーやカブレラに投資するだけの資金的余裕をつくることができた。
もちろんキンズラーにもリスクはある。
元々打撃はアーリントンの恩恵を受けたものでアウェイでは平凡という評価であり、走塁に関してもやや衰えを見せ始めた感がある。
しかしそこを考慮してもこのダウングレードと守備・走塁強化には大きな意味があり、タイガースとレンジャーズ両者の思惑がしっかり噛み合った合理的なトレードだと思う。



2 件のコメント:

  1.  私もこれは両チームにとって足らざるを補いチーム力を向上させる良いトレードだと思います。レンジャーズ打線はハミルトンを失って長打力が低くなっていた感があり、チーム力も低下気味だったので、フィルダー獲得でもう一度強打線復活となる可能性が高いでしょう。

     一方のタイガース。最近のチーム状況を見るとチームバランスが悪すぎるという印象が強かった。足の速くないスラッガーばかりが目につき、スピードのある小技の使える選手が少なく、主軸打者が不振に陥ったり長打力を封じられてしまうと、途端に得点力が低下。守備の方も今一つで投手の足を有形無形に引っ張ることが少なくなく、時に内野に複数の穴があるように見えることすらありました。
     タイガースは総合力では大リーグトップクラスで、今年世界一になったレッドソックスとも十分互角でしょう。しかし、力は同じでもそれを発揮する術が限られており、それが今年頂点に立てなかった最大の要因です。
     キンズラーにはスピードも一定の長打力も守備力もあり、これでチームバランスが大幅に向上されると思います。浮いたお金でもう一つの泣き所、リリーフ投手陣を整備すれば、世界一も十分に可能でしょう。

     最後に大リーグを見ていて面白いのは、今回のようなビッグトレードがしばしばあるということです。トレードに関して「役立たずを放出するもの」というネガティブなイメージが色濃く残っている日本のプロ野球ではまずお目にかかれません。しかし、トレードとは選手が最良のパフォーマンスを発揮し、チームが総合力を向上させるためのもの。この点、プロ野球も参考にしていくべきでしょう。

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    1. コメントありがとうございます。
      このトレードは近年あったあらゆるものの中でもかなり納得できる部類に入ると思います。
      契約年数がかなり残っているオールスター選手同士の1対1という珍しさもあって面白いですね。
      今回のようにお互いの弱点を補うものこそが本来のトレードだと言えるのではないでしょうか。
      糸井のトレードなどNPBでも最近はトレードのネガティブなイメージが改善されつつあるのではないかと思います。

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